将棋の戦法にはさまざまなスタイルがありますが、その中でも「居飛車穴熊」はプロ・アマ問わず根強い人気を誇る戦法のひとつです。
堅牢な守備力と終盤での反撃力を兼ね備えたこの布陣は、初心者から上級者まで幅広く活用されています。
この記事では、居飛車穴熊の基本から応用、さらに有力な対策法までを丁寧に解説します。
戦法に悩んでいる方や、穴熊を攻略したい方にとっても参考になる内容になっていますので、ぜひ最後までお読みください。
居飛車と振り飛車はどっちが強い?初心者向け診断と勝率・性格別の選び方

居飛車穴熊とは?特徴と基本構造
居飛車穴熊は、王を端に囲い、飛車はそのまま右側(居飛車)に構える堅牢な防御型の囲い戦法です。
ここではその基本的な仕組みや魅力について解説します。
居飛車穴熊の基本形
居飛車穴熊では以下のような囲いが基本形になります。
駒配置 | 説明 |
王 | 端(1九または9一)まで移動し、金・銀で囲う |
金 | 王の周囲に配置(7八・8八など) |
銀 | 角頭を守る位置(6八など)に配置 |
飛車 | 初期位置(2八または8二)にそのまま居る |
角 | 5七などに位置し、中央〜左側をカバー |
この形が完成すると非常に強固な守りが築かれ、終盤まで崩れにくくなります。
居飛車穴熊の長所
居飛車穴熊には次のような長所があります。
- 守備力が高い:終盤まで持ちこたえる可能性が高い。
- 反撃力が強い:相手が無理攻めをしてきた場合に、一気に反撃に転じられる。
- 駒の連携が良い:金・銀・王が密に連携し、破られにくい構造になっている。
居飛車穴熊の短所
もちろん、弱点も存在します。
- 囲うのに時間がかかる:序盤で囲い切る前に仕掛けられると苦しい。
- 中央が薄くなりがち:囲いを重視するあまり中央の守りが手薄になる。
- 相手に読まれやすい:定跡化されているため対策されやすい。
このように「居飛車穴熊」は堅実なスタイルを好むプレイヤーに非常に適しています。
次のセクションでは、居飛車穴熊の代表的な定跡を詳しく紹介していきます。
居飛車穴熊の定跡を覚えよう
居飛車穴熊は人気のある戦法ゆえ、定跡も体系化されています。
ここでは代表的な指し方とその狙いを理解しておきましょう。
まずは基本的な進行パターンと、定跡ごとの狙いを整理していきます。
基本の指し手順(対振り飛車)
下記は、対四間飛車でよく使われる「居飛車穴熊」の基本手順です。
手数 | 指し手 | 解説 |
1 | ▲7六歩 | 角道を開ける基本の一手 |
2 | △3四歩 | 振り飛車側も角道を開ける |
3 | ▲2六歩 | 飛車先を突く |
4 | △4四歩 | 四間飛車への布石 |
5 | ▲2五歩 | 飛車先をさらに伸ばす |
6 | △4二飛 | 四間飛車が確定 |
7 | ▲6八玉 | 居飛車穴熊の囲いに向けて玉を移動 |
8 | △6二玉 | 相手も囲いに動く |
9 | ▲7八玉〜▲8八玉〜▲9八玉 | 玉を端まで運んで穴熊完成を目指す |
この流れに沿って、金銀を玉の周囲に配置し、角を5七に引いて中央を守る体制を築くのが基本です。
代表的な定跡パターン
以下の定跡は、居飛車穴熊を用いる際によく登場します。
- ▲2五歩早仕掛け対策型:相手の早い攻撃に対して、角交換や飛車先交換を拒否しながら穴熊を完成させる。
- 藤井システム対策型:四間飛車側の強烈な攻めを想定し、早めに角を使って守りを固める。
- 斜め棒銀対策型:斜め方向からの攻撃に対し、金銀のバランスを崩さずに構える形。
囲いに入るまでの注意点
囲いに時間をかける必要があるため、以下の点に注意しましょう。
- 端攻めへの備え:玉が端に寄るため、相手の端攻めに弱くなる可能性があります。香車や歩の使い方が重要です。
- 角の利きを意識する:角を引くタイミングを間違えると、中央や相手の攻撃ルートが空いてしまいます。
- 飛車先の歩交換の判断:飛車先交換を許すかどうかは、中盤の流れを左右するので慎重に。
居飛車穴熊の攻め方と狙い筋
居飛車穴熊は守りが堅い分、攻めはじっくりとした構えから始まります。
主に右側からの攻めを軸にして、相手の隙を突く形が多いのが特徴です。
以下では、具体的な攻めのパターンや狙い筋を詳しく見ていきましょう。
右辺からの銀桂の活用
穴熊は右辺(自陣の2筋~5筋)を中心に攻めを組み立てます。銀と桂馬の展開が鍵になります。
【攻めの基本形】
駒 | 目的 | 注意点 |
銀 | ▲6六銀〜▲7五銀などで前線に出る | 銀が孤立しないよう金との連携が大切 |
桂馬 | ▲8六桂〜▲7四桂など跳ねて突く | 桂先の歩を突き捨てる準備をする |
歩 | 攻撃ラインを開く | 歩の突き捨てで角道や銀の通り道を作る |
角の使い方と交換タイミング
角の利き筋を活かして攻撃に厚みを加えることも重要です。以下のような活用法があります。
- 5七の角を引き角で使う
→ 角を守備から攻撃に転じるポジション - 相手の角と交換して飛車を成り込む
→ 角交換後に飛車を敵陣に成らせることで主導権を取る - 角の筋を通して二枚替えを狙う
→ 相手の金銀に圧をかけて交換を誘発する
飛車の展開と成り込み狙い
飛車は終盤にかけて成り込んで初めて力を発揮します。以下のような準備が必要です。
- 飛車先の歩交換を済ませておく(▲2四歩〜▲2三歩成など)
- 銀桂で守りを崩し、空いたマスに飛車を走らせる
- 飛車交換に持ち込むことで敵陣突破の道を開く
【飛車成りまでのイメージ】
- ▲2五歩(飛車先交換)
- ▲7五銀(右辺攻め)
- ▲2三歩成(飛車成り)
- △同銀 → 飛車が突入!
守りから攻めへの切り替えのタイミング
穴熊は受けに回りすぎると逆に不利になります。以下のタイミングを意識しましょう。
- 相手が囲いを崩した瞬間:反撃のチャンス
- 歩交換や角交換が成立した後:攻め筋をつくるチャンス
- 持ち駒に桂・歩が揃った時:端攻めや桂跳ねが有効になる局面
居飛車穴熊に向いているタイプとその理由
将棋の戦法選びは、プレイスタイルとの相性が重要です。
居飛車穴熊は攻守のバランスが問われるため、向いているタイプとそうでないタイプが分かれます。
ここでは、居飛車穴熊に向いている人の特徴や心理的な傾向を見ていきましょう。
慎重で堅実な戦いを好む人
居飛車穴熊は、守備を最優先にした「待ち」の構えが特徴です。
攻め急がず、じっくり形を作りたい人に向いています。
向いている理由:
- 玉が堅く、終盤の逆転リスクが低い
- 守備の安心感があり、ミスしてもリカバリーしやすい
- 自分から無理に仕掛けず、相手の出方を待てる
終盤力に自信のある人
居飛車穴熊は、序盤・中盤を耐えてから終盤で一気に勝負を決める形が多いです。終盤の詰将棋的な展開に強い人に有利です。
特徴的なプレイヤー
特徴 | 内容 |
読みが深い | 5手〜10手先を読むのが得意 |
計算力がある | 詰み・必至の判断が早い |
冷静な判断 | 持ち時間が少なくても焦らない |
受けが得意なプレイヤー
居飛車穴熊は受けが硬く、粘り強く戦う必要があります。相手の攻めを正確に受け止め、反撃のチャンスを待てる人に向いています。
適性チェックリスト
- 攻められても慌てない
- 角交換や飛車交換にも冷静に対応できる
- 序盤にリードされても持ち直せる
時間をかけて構想を練るのが好きな人
序盤から一気に攻めるよりも、数十手かけて理想形を目指す人には最適です。
理由
- 穴熊の構築に数手を要する(例:▲6八玉〜▲7八玉〜▲8八玉…)
- 駒組みを楽しめるタイプに合う
- 囲いと攻撃陣の連携を考えるのが好きな人に向く
居飛車穴熊のよくある失敗パターンと対策
居飛車穴熊は強力な戦法ですが、使いこなすには注意が必要です。
初心者は囲いに固執しすぎて攻め遅れたり、形が中途半端になることも少なくありません。
以下では、よくある失敗例とその対策を具体的に解説していきます。
囲いに時間をかけすぎて先攻を許す
問題点: 玉を堅く囲うことに集中しすぎて、相手の攻撃を許すケースが多いです。
具体例:
手順 | 結果 |
▲6八玉→▲7八玉→▲8八玉→▲9八香→▲9九玉 | 相手が中央から動いて主導権を握る |
囲い完成前に仕掛けられる | 反撃する形が作れていない状態で不利に |
対策:
- 駒組みの途中でも相手の動きに応じてバランスよく攻防を考える
- 「美濃→銀冠→穴熊」のような発展型を選び、柔軟に構える
角の利きが止まり戦線から孤立
問題点: 自陣を固めすぎるあまり、角の活用が難しくなることがあります。
ミス例:
- ▲7七角が▲6六銀や▲7六歩で閉じ込められる
- 攻撃に使う駒が限定され、攻めが単調になる
対策:
- 角道を止める場合は、角の転換を見据えて▲5六角や▲8八角などを用意
- 銀や桂馬と連携し、厚みで攻める展開を意識する
端攻めに対して無警戒になる
問題点: 玉を9九まで囲うことに夢中になり、端の守備が疎かになることがあります。
弱点のパターン
攻め筋 | 説明 |
△1四歩〜△1五歩〜△1六歩(端攻め) | 香車の頭が標的にされる |
△2四銀〜△1五銀(端銀) | 穴熊玉が圧迫される展開に |
対策:
- ▲9七歩や▲9八香の形を安定させておく
- 端攻めされそうな場面では反撃を優先し、先手を取る構想を考える
中央への備えが不十分で棒銀や早繰り銀にやられる
問題点: 中央の厚みがないと、棒銀や早繰り銀に対応しづらいです。
対策
- ▲6六銀+▲5七銀の形で中央を固める
- 相手の銀の進出を早めに▲4五歩などでけん制する
表:中央構えの例
銀の配置 | 役割 |
▲6六銀 | 飛車先の守備と反撃の要 |
▲5七銀 | 中央突破を防ぎ、厚みを作る |
居飛車穴熊を使った有名棋士と実戦例
居飛車穴熊はプロ棋士の間でも長年研究されてきた堅牢な囲いです。
ここでは、実際に活用している代表的な棋士と、その戦いから学べるポイントを見ていきましょう。
プロの戦法運用はアマチュアにとって非常に参考になります。
配置や仕掛けのタイミングなどを把握しましょう。
羽生善治九段の居飛車穴熊
羽生善治九段は柔軟な指し回しで知られていますが、居飛車穴熊も得意戦法の一つです。
棋譜例:
対局相手 | 戦型 | 結果 | 解説ポイント |
佐藤康光九段 | 相居飛車・穴熊 | 勝ち | 角交換を拒否して粘り強く囲い、終盤で爆発力を発揮 |
参考ポイント:
- 羽生流は序盤から無理せず、囲いをじっくり整える
- 中盤で相手の攻めを引きつけ、カウンターに転じる
渡辺明名人のバランス型穴熊
渡辺明名人は、攻守のバランスを重視した居飛車穴熊を多く採用しています。
特徴:
- 駒組みに無駄がなく、速さと堅さを両立
- 攻め筋が豊富で、終盤力も高い
棋譜例:
対局相手 | 状況 | 見どころ |
永瀬拓矢王座 | 公式戦 | 4六銀型からの鋭い反撃が光る |
藤井聡太七冠 | タイトル戦 | 端からのカウンターが成功し形勢逆転 |
谷川浩司九段のスピード穴熊
谷川九段は囲いながら攻めるという「光速流」で有名です。
居飛車穴熊でもスピード感ある展開を見せます。
棋譜の特徴
- 玉の早囲い→すぐに攻めの態勢へ移行
- 銀や角を素早く動かし、相手に主導権を与えない
ポイントまとめ:
強み | 解説 |
囲いと攻めの両立 | 囲ったらすぐ攻める構成 |
光速流 | 無駄のない手順でリズムよく展開 |
藤井聡太竜王の新型構想
藤井竜王は居飛車穴熊よりも振り飛車を使うイメージが強いですが、タイトル戦では居飛車穴熊も採用しています。
注目対局:
- 木村一基九段との王位戦における居飛車穴熊で、鋭い中央突破を実現
- 角換わりからの派生でも強固な囲いで押し切る展開が見られます
学べる点:
- 現代型の新しい発想を取り入れている
- 一手の価値を最大限に活かす構成力が見事
居飛車穴熊戦法を極めて勝率アップを目指そう
ここまで居飛車穴熊の魅力や戦術、プロ棋士の実戦例まで見てきました。
最後に、これまでの内容を整理し、どのように自分の棋力向上につなげていくかを考えていきましょう。
居飛車穴熊は初心者から上級者まで使える堅実な戦法です。
守りを固めつつ反撃のチャンスを狙うことで、安定感のある将棋が実現できます。
学習すべきポイントを整理
以下に、居飛車穴熊を学ぶうえで重要な観点を表にまとめました。
学ぶべき要素 | 内容 | 意識すべきこと |
囲いの構築手順 | 金・銀・玉の動かし方 | 玉の位置を最奥に置き、金銀を上下に配置 |
駒組みのバランス | 攻めとの連携 | 囲いすぎて攻め手を欠かないよう注意 |
カウンターの仕掛け | タイミングと準備 | 相手の攻めに対し一気に反撃を決める構想 |
端攻め対策 | 端歩のタイミング | 早めに端歩を突いておくと安全性アップ |
練習方法とおすすめツール
居飛車穴熊を身につけるには、実戦と並行して勉強を継続することが不可欠です。
- 将棋アプリ
将棋ウォーズや将棋クエストでは、居飛車穴熊を多用するプレイヤーが多く、実戦で鍛えやすい環境があります。短時間で多くの対局が可能です。 - 詰将棋・囲い崩しの問題集
攻めの感覚を磨くと同時に、自分の囲いがどう崩されるかを学び、弱点を把握できます。 - YouTube解説
プロ棋士や強豪アマによる実戦解説動画も有効です。「居飛車穴熊 戦法」で検索すれば、多くの無料コンテンツが見つかります。
自分のスタイルに合わせてカスタマイズ
居飛車穴熊の魅力は、同じ囲いの形でもプレイヤーによって指し方に個性が出せることです。
| スタイル別おすすめアプローチ |
プレイスタイル | おすすめの展開 |
じっくり構える | 駒組みを丁寧に整え、相手の出方を見てから攻める |
早仕掛けが得意 | 最小限の囲いで素早く攻めの形を作る |
カウンター志向 | 相手の攻めを受け止め、反撃で勝負を決める |
今後の成長に向けて
居飛車穴熊を軸に戦法を組み立てていけば、さまざまな相手と互角以上に戦えるようになります。
- 一局一局に「囲い」「攻め」「受け」のどれを重視したかを記録
- 勝った対局よりも、負けた対局を振り返って穴を発見
- 同じ形でも対局者の意図によって展開が大きく異なると理解
このようにして、居飛車穴熊を将棋の柱として育てていきましょう。
まとめ|居飛車穴熊で勝率を安定させよう
この記事では、将棋戦法の一つである「居飛車穴熊」について、特徴・手順・対策・プロ棋士の活用例・勉強法まで幅広く解説してきました。
初心者にとっても使いやすく、上級者にとっても奥深さのあるこの戦法は、まさに「守りの王様」といえる存在です。
居飛車穴熊の要点まとめ
項目 | 内容 |
特徴 | 玉を堅牢な囲いに入れて、攻めを待つ構え |
強み | 終盤まで粘り強く戦える・ミスに強い |
弱点 | 囲うまでに時間がかかる・端攻めに注意 |
おすすめレベル | 初心者〜上級者まで全レベル対応 |
活用例 | 藤井猛・羽生善治などのプロ棋士も使用経験あり |
今後の活用に向けて
- 実戦を通して駒組みのパターンを身体に覚え込ませる
- 詰将棋や囲い崩しで「守り」と「カウンター」の感覚を磨く
- 他の戦法とも比較し、自分の将棋スタイルに合った指し方を探す
居飛車穴熊は、堅さと持久力を兼ね備えた戦法です。
初心者が将棋の基礎を学ぶには最適であり、実力が上がってもなお使える武器になります。
自分だけの穴熊スタイルを構築し、盤上の勝負をさらに楽しんでいきましょう。
