将棋にはさまざまな戦法が存在しますが、その中でも「鬼殺し(おにごろし)」と呼ばれる戦法は、特に初心者の間で高い人気を誇っています。角道を素早く開けて相手の隙を突くこの奇襲戦法は、少ない手数で勝負を決められる可能性があるため、スリルと魅力にあふれています。
一方で、鬼殺し戦法には明確なリスクや対策も存在し、上級者には通用しにくいとされることも。本記事では、そんな鬼殺し戦法の概要から基本手順、勝率や対策、そして学習に役立つ書籍や動画までをわかりやすく解説します。
将棋戦法「鬼殺し」とは?初心者に人気の理由
将棋戦法「鬼殺し」は、相手が囲いを完成させる前に素早く攻め込み、角や銀を活用して主導権を握る戦法です。まずはその由来と人気の理由について見ていきましょう。
鬼殺し戦法の概要と由来
鬼殺し戦法は、その名の通り「相手の陣形を一気に崩す」という強烈なイメージから名付けられた奇襲戦法です。初手から積極的に角道を開け、銀を繰り出して敵陣に切り込みます。
この戦法は、古くから存在するものの、ネット将棋の普及と共に再び注目されるようになりました。特に将棋ウォーズや将棋倶楽部24などのオンライン対局アプリでよく見られることが多く、対局時間の短い「早指し」では非常に効果的です。
なぜ初心者が鬼殺しを使うのか
初心者にとっては、囲いや定跡の知識が少ない段階で「すぐに攻められる」という戦法は魅力的です。特に鬼殺しは以下の点で初心者向きといえます。
- 開始数手で攻撃が始まるため、手順がシンプル
- 相手の囲いが完成していないため、攻撃が通りやすい
- 少ない読みでも勝ちやすいケースがある
一方で、相手が冷静に対応すれば簡単に防がれてしまうため、練習や研究が必要です。
奇襲戦法としてのインパクト
鬼殺しは「角交換+銀の突進」という大胆な流れで、相手の不意を突くインパクトのある戦法です。初対面の相手や持ち時間の少ない対局では、対応しきれずに形勢を崩すことも少なくありません。
表:鬼殺しの主な特徴と初心者への影響
特徴 | 初心者にとってのメリット |
早い攻撃展開 | 相手が囲う前に勝負が決まる可能性がある |
シンプルな指し手 | 覚えやすくすぐに実戦投入できる |
意外性のある展開 | 相手が動揺しやすい |
将棋戦法「鬼殺し」の基本手順と狙い
鬼殺し戦法は、角道を開けて早期に銀を進出させることで、相手の陣形が整う前に一気に攻め込むという奇襲型の戦法です。ここではその基本的な手順と、どのような形を目指していくのか、具体的に解説していきます。
角道を開ける初手からの流れ
鬼殺しは、主に▲7六歩から始まる先手用の戦法で、角道を開けたあとに▲7七銀と早く銀を上がるのが特徴です。
代表的な流れは以下のようになります:
▲7六歩 △3四歩
▲7七銀 △8四歩
▲2六歩 △8五歩
▲2五歩 △3三角
▲2四歩 △同歩
▲同飛 △8六歩
▲同歩 △同飛
▲2三歩 △同金
▲7八金 …
この進行はあくまで一例であり、鬼殺しのバリエーションは多岐にわたります。基本は、角道と銀を連携させて相手の隙を突くという点です。
重要なのは、▲7七銀を早く決めることで、角頭を守りつつ攻めの銀を繰り出す準備が整うことにあります。
狙う筋と定番の囲い形
鬼殺し戦法では、主に「左銀」を活用して敵陣に突撃する形を取ります。以下の図をご覧ください。
(例:鬼殺しの初期構え)
先手側
9 8 7 6 5 4 3 2 1
香 桂 銀 金 玉 金 銀 桂 香
飛 角
歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩 歩
▲7七銀
▲2六歩
▲2五歩
▲2四歩(→交換)
(中略)
銀が6五〜5四と突進
鬼殺しでは、玉を囲うことよりも早い攻撃を重視するため、金銀がバラバラになりやすい点には注意が必要です。定番の囲いをつくる余裕はほとんどありませんが、最低限▲7八金や▲6八玉など、簡単な囲いで急所を守ることが求められます。
また、鬼殺しは右側から攻めることが多く、相手の飛車側(居飛車なら右辺)を破る筋が典型的です。
実際の鬼殺し棋譜と解説
以下は、将棋ウォーズでよく見られる鬼殺しの実戦例です。
鬼殺し実戦例(先手)
1. ▲7六歩 △3四歩
2. ▲7七銀 △8四歩
3. ▲2六歩 △8五歩
4. ▲2五歩 △3三角
5. ▲2四歩 △同歩
6. ▲同飛 △8六歩
7. ▲同歩 △同飛
8. ▲2三歩 △同金
9. ▲7八金
この流れでは、早くも6手目あたりから飛車交換と角の活用が見えてきます。鬼殺しの成功パターンは、以下のような形で進行することが多いです:
- ▲2四歩で飛車を使った攻め筋を構築
- ▲7七銀→▲6六銀で角筋を狙う
- △3三角や△4四角と上がってきた角にプレッシャーを与える
- 玉が中央に近いままの相手に急襲
特に、**△3三角と上がってきたときの角頭(2二の地点)**を狙うのが王道です。ここを突破できれば、早期に勝負がつくことも珍しくありません。
将棋戦法「鬼殺し」の強さと勝率を検証
鬼殺し戦法はそのインパクトの強さから「最強の奇襲戦法」と言われることもありますが、実際のところ勝率はどの程度なのでしょうか。ここでは、戦法の有効性や勝率データ、そして上級者への通用度について検証します。
居飛車・振り飛車に対する有効性
鬼殺しは相手が居飛車を選んだ場合に特に効果を発揮しやすい戦法です。居飛車側は通常、玉を矢倉や舟囲いなどに囲ってから戦いを始めますが、鬼殺しはその囲いが整う前に急襲するため、隙を突きやすいのです。
一方で、相手が振り飛車を選んだ場合は少し事情が変わります。振り飛車は初手から飛車を移動させ、玉の囲いが比較的早く整うため、鬼殺しの急襲が決まりにくくなります。
表:鬼殺し戦法の有効性(目安)
相手の戦法 | 有効度 | 理由 |
居飛車 | 高い | 囲いが整う前に隙を突けるケースが多い |
振り飛車 | やや低い | 玉が早く安全地帯に移動するため急襲が決まりにくい |
このため、鬼殺しを使用する際は、相手の初手や序盤の配置から居飛車志向か振り飛車志向かを判断することが大切です。
勝率データとその読み解き方
将棋ウォーズや将棋倶楽部24などのオンライン対局データでは、鬼殺しの勝率はおおむね40〜50%前後で推移しています。これはほかの標準戦法と比べて突出して高いわけではありませんが、初心者〜初段クラスであれば勝率が高めに出やすい傾向があります。
理由は以下の通りです。
- 相手が鬼殺しの手順を知らずに対応を誤ることが多い
- 短時間対局では急襲に対応しきれず崩れるケースが多い
- 少ない読みで攻め切れるパターンがある
一方で、中級者以上は鬼殺しの手順を知っていることが多く、定跡通りの受けで防がれると一気に不利になるため、勝率が下がりやすいのも事実です。
上級者に通用するのか?
結論から言うと、上級者に鬼殺しは通用しにくいと言えます。上級者は角交換や桂馬の跳ねを意識した受けを早めに行うため、攻め筋をつぶされやすいのです。
例えば、△3三角や△3四銀の形で桂馬の跳ねを防がれたり、角道を閉じられて攻め筋を断たれたりすると、鬼殺し側は攻撃の手段を失い、自陣も薄いため苦しい展開になります。
プロ棋士の対局でも鬼殺しはほとんど見られません。奇襲としての魅力はありますが、安定性に欠けるため持久戦では不利となる可能性が高いのです。
将棋戦法「鬼殺し」への対策と崩し方
鬼殺しはインパクトのある奇襲戦法ですが、正しい対策を知っていれば冷静に対応可能です。ここでは鬼殺しへの有効な対策や崩し方について、具体的な手筋と注意点を交えて解説します。
角交換を防ぐ守備の工夫
鬼殺しの基本的な狙いは、角道を開けて▲7七銀〜▲6六銀と進め、相手の△3三角や△4四歩のスキに角交換や角頭攻めを仕掛けることにあります。
これに対抗するには、以下のような工夫が効果的です。
- △3三角と早く上がらないこと:角頭が弱点になるため、無理に上がらないか、後手なら△4二角と引く手も考慮
- 角道を止める:△4四歩や△3三銀で角道を遮断し、攻撃の狙いを未然に防ぐ
- 飛車を早めに活用する:鬼殺しの主攻筋(主に2筋)に対応するため、早めに飛車先の歩を突くか守備駒を配置する
守備を固めながら、無理に角交換を受けずに囲いを完成させることが最大の防御策です。
囲いを急ぐことで対応する
鬼殺しは玉が中央付近にいる状態で一気に攻めてくるため、こちらが早めに囲いを完成させておけば、攻撃は通じにくくなります。
おすすめの囲い:
- 美濃囲い(振り飛車の場合)
- 矢倉囲い(居飛車の場合)
- 舟囲い+金銀の連携
特に金と銀を近づけておくことが重要です。鬼殺しの攻撃は飛角銀の連携による一点突破なので、しっかり金銀の守備陣形を築いておけば受けきれる場面が増えます。
囲い完成後は、相手の無理攻めに乗じて反撃に転じるのがセオリーです。
よくある鬼殺し側のミス
鬼殺しは成功すれば強力ですが、序盤で判断を誤るとすぐに形勢が悪化します。以下は鬼殺し側が陥りがちなミスです:
ミスの例 | 説明 |
銀が突進しすぎて孤立 | ▲6六銀〜▲5五銀と無理に進軍すると、後続が続かず潰される |
玉が無防備なまま攻める | 攻撃優先で玉が▲6八や▲5八に取り残されると即詰み筋もあり得る |
飛車を使いすぎる | 飛車交換や2筋突破を狙いすぎると持ち駒のバランスが崩れ、受けに回ったとき弱い |
こうしたミスを誘うような**「受けの構え」**を見せて、鬼殺しのペースを乱すのが対策のポイントです。
将棋戦法「鬼殺し」は最強なのか?メリットとデメリット
将棋の鬼殺し戦法は、奇襲としては非常にインパクトのある戦法ですが、果たして「最強」と言えるのでしょうか。ここでは、鬼殺し戦法のメリットとデメリットを整理し、その本質を明らかにしていきます。
短期決着に持ち込める魅力
鬼殺しの最大の魅力は、序盤から一気に勝負をかけられる点にあります。
- 角道を開けてからの▲6六銀〜▲5五銀の速攻
- 相手の囲いが未完成なうちに飛角銀の連携で突撃
- うまく決まれば10手台〜20手台で勝負が決まることも
これは特に**持ち時間の短い将棋(将棋ウォーズの3分切れなど)**で有効です。相手が定跡外の攻撃に慣れていなければ、パニックを誘発しやすく、初心者や級位者同士の対局では勝率が高まります。
鬼殺しは「時間に追われた場面での爆発力」に優れ、相手に考える余裕を与えず勝負を決める戦法として、一定の魅力を放っています。
読まれると通じないリスク
一方で鬼殺しは、「一発屋」的な性質も持つ戦法です。対策が知られている上級者には通用しにくく、以下のような弱点があります。
デメリット | 内容 |
定跡として広く知られている | 鬼殺し対策はネットや書籍に多数掲載されている |
冷静に囲いを固められると苦しい | 相手が矢倉や美濃囲いなどを早く完成させると攻めが通らない |
玉が薄い | 鬼殺し側の玉は▲5八や▲6八に残りがちで、反撃を食らうと脆い |
つまり、奇襲性が通じない相手には非常に分が悪くなるのです。特に対戦回数の多いネット将棋では、一度使った相手にリマッチされると対応されやすくなります。
中盤以降の対応力に注意
鬼殺しは序盤に全力を注ぎすぎるため、中盤以降の柔軟性に欠けることが多くあります。
- 攻めが止まったとき、守りの陣形が貧弱
- 玉が中央に近く、囲いの構築が遅れる
- 駒の連携がばらけ、形が乱れやすい
そのため、鬼殺しは「勝ち切れなかったとき」の難しさが大きな課題です。相手が冷静に受けきってしまえば、形勢は一気に逆転することもあります。
実戦で鬼殺しを使うなら、早期に勝負を決める覚悟と、決まらなかったときの第二プランが必要不可欠です。
将棋戦法「鬼殺し」を学べる将棋本・動画まとめ
鬼殺し戦法は、序盤の攻めを重視するタイプの将棋戦術であり、しっかりとした知識とタイミングの見極めが重要です。ここでは、鬼殺しを学ぶために役立つ将棋本やYouTube動画、実戦形式で学べるサービスなどを紹介します。
初心者におすすめの書籍3選
鬼殺し戦法を体系的に学ぶには、やはり将棋書籍が基本です。定跡や狙い、対策なども網羅的に知ることができるので、初心者は1冊持っておくと便利です。
書籍名 | 著者 | 特徴 |
『奇襲大全』 | 勝又清和 | 鬼殺しを含む多様な奇襲戦法を紹介。 |
『奇襲戦法の裏事情』 | 所司和晴 | なぜ鬼殺しが通用するのか?を詳しく解説。 |
『はじめての将棋戦法』 | 羽生善治監修 | 基礎定跡から奇襲まで初級者向けに解説。 |
これらの本では鬼殺しに加え、他の奇襲戦法との比較や、どんな相手に有効かの解説も含まれています。
YouTubeで見られる丁寧解説
YouTubeでは、多くの将棋系チャンネルが鬼殺し戦法を取り上げています。図面や手順の表示もあり、初心者でもイメージがつかみやすいのが特徴です。
おすすめの動画例:
- 【将棋実況チャンネル・アゲアゲ将棋実況】
→ 鬼殺しを使って実際に勝負しながら、メリット・デメリットを丁寧に解説。 - 【元奨励会員アユムの将棋実況】
→ 角道を開ける狙いや、相手がどう受けるかを細かく解説。初心者にも優しい口調。 - 【将棋放浪記】
→ 初心者が「騙せる」タイミングの見極めや、対策されないコツにフォーカス。
YouTubeなら無料でいつでも視聴可能なので、気軽に試合前の学習や復習に使えるのも魅力です。
将棋ウォーズの実戦動画から学ぶ
実際の対局で鬼殺し戦法をどのように使うかは、将棋ウォーズなどの対局アプリでの実戦動画を見るのが効果的です。
将棋ウォーズでは「棋譜検索機能」や「観戦モード」があるため、鬼殺し戦法を使っているユーザーの対局を探して学ぶことができます。
ポイント:
- 対戦相手がどう対処しているかを見る
- 成功した場合と失敗した場合の両方を分析
- 時間配分や心理的なプレッシャーも参考になる
また、自分でも鬼殺し戦法を使って実戦経験を積むことで、相手の対応パターンや自分の癖が見えてきます。実戦→復習→改善のサイクルを繰り返すことで、確実に上達していくでしょう。
まとめ:将棋戦法「鬼殺し」の総復習
最後に、記事の重要ポイントを振り返ります。
項目 | ポイントまとめ |
鬼殺しとは | 角道を早めに開けて▲5五銀などで速攻を狙う奇襲戦法 |
基本手順 | ▲7六歩 → ▲7五歩 → ▲6六銀 → ▲5五銀 などの流れ |
強さと勝率 | 級位者や初心者相手には高い勝率を誇るが、上級者には通じにくい |
対策と崩し方 | 囲いを急ぐ、角交換を防ぐなどの基本対策が有効 |
メリット | 時間制限付きの将棋で奇襲が成功しやすい |
デメリット | 中盤以降の構想力・守備力が不足しやすい |
学習方法 | 書籍・YouTube・将棋ウォーズの実戦を通じて学べる |
鬼殺し戦法は、そのスピードと奇襲性で多くの将棋ファンを魅了しています。しかし、安易に使うのではなく、しっかりと理解したうえで武器として使いこなすことが大切です。
「自分の将棋に刺激が欲しい」「いつもと違う戦法を試してみたい」という方には、一度鬼殺しを取り入れてみる価値があるでしょう。
