将棋には数多くの戦法がありますが、その中でも「奇襲戦法」と呼ばれるものは、相手の意表を突いて一気にリードを奪える戦術として人気があります。奇襲戦法は、定跡(じょうせき)から外れた指し方を狙い、相手の研究不足や油断を突くことを目的としています。特にアマチュア同士の対局や短時間の将棋では大きな効果を発揮し、実戦での勝率アップに直結することも珍しくありません。
一方で、奇襲戦法は成功すれば華やかですが、失敗すると一気に不利に陥るリスクもあります。だからこそ、奇襲戦法を「使う側」と「受ける側」の両方で知っておくことが、将棋上達に欠かせないポイントです。この記事では、代表的な奇襲戦法の種類や特徴、具体的な対策、さらに学習に役立つ棋譜や教材までを詳しく解説していきます。
将棋の奇襲戦法とは?基本の考え方と特徴
奇襲戦法とは、定跡から外れて相手の意表を突くことで主導権を握ろうとする将棋の戦法です。相手が予想していない局面に誘導することで、研究の差をなくしたり、短期決戦で有利に立つことを狙います。アマチュア将棋では特に人気が高く、短時間の対局や早指しでは大きな効果を発揮します。
奇襲戦法の基本的な狙い
奇襲戦法の根底には「相手の準備不足を突く」という発想があります。定跡を外れることで相手が考える時間を増やし、ミスを誘うことができるのです。
- 相手に熟知されていない局面を作る
- 序盤からペースを乱して主導権を握る
- 攻め筋を早く仕掛け、時間切迫を狙う
このように「奇襲=一発芸」と思われがちですが、正しく使えば十分に理にかなった戦法でもあります。
奇襲戦法のメリットとリスク
奇襲戦法には明確な長所と短所があります。以下にまとめてみましょう。
メリット | デメリット |
相手の意表を突ける | 研究され尽くすと通用しない |
短期決戦で有利 | 長期戦になると不利になりやすい |
序盤で主導権を握れる | 一手のミスで逆に形勢を損ねる可能性 |
つまり、奇襲戦法は「ハイリスク・ハイリターン」の要素を持つ戦法だといえます。
代表的な奇襲戦法の例
奇襲戦法には多数のバリエーションがあります。中でも有名なのは以下のものです。
- 筋違い角:序盤で角交換を行い、変則的な位置に角を打つ
- 新鬼殺し:序盤から角道を開けて飛車先を突き、玉頭を狙う
- トマホーク:三間飛車から△4五歩を絡めて攻撃する振り飛車奇襲
- 嬉野流:角を動かさず早めに玉を囲う独特の戦法
これらは奇抜でありながら一定の実戦例を持ち、プロやアマチュアで使われることもあります。
将棋の代表的な奇襲戦法の種類と棋譜
奇襲戦法には数多くの種類があります。それぞれに独特の狙いがあり、使いこなすことで対局相手のペースを大きく乱すことができます。ここでは主要な奇襲戦法を紹介し、実際の棋譜例もあわせて見ていきましょう。
筋違い角|古典的ながら今も使える奇襲
筋違い角は、角交換から相手の予想外の地点に角を打ち込む戦法です。狙いは「相手の歩を突きづらくさせる」「飛車先の攻めを制限する」ことにあります。
- 狙い:序盤で相手の進行を制限し、自由度を奪う
- 強み:相手が知らないと形勢を大きく損ねやすい
- 弱点:正しく受けられると角が遊び駒になりやすい
棋譜例では、▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩▲7七角△3三角▲2五歩△同歩▲同飛…と進んでから角交換に持ち込み、意表の筋違い角を狙う進行が有名です。


新鬼殺し|序盤からの強烈な玉頭攻め
新鬼殺しは、序盤から角道を開けて飛車先を突き、相手の玉頭を直撃する奇襲です。昔ながらの「鬼殺し戦法」を改良したもので、より実戦的になっています。
- 狙い:玉頭を直撃して短期決戦に持ち込む
- 強み:低級〜中級のアマチュア対局で特に有効
- 弱点:受けを知っている相手には通用しにくい
実際にアマ大会などでは、奇襲として強力な武器になっています。


トマホーク|三間飛車からの新感覚奇襲
トマホークは、振り飛車から△4五歩を早く突くことで主導権を握る奇襲戦法です。相手が居飛車で油断していると、強烈な攻撃にさらされます。
- 狙い:中央突破を早めに仕掛けることで混戦にする
- 強み:研究不足の相手には非常に刺さりやすい
- 弱点:受けを知っていれば居飛車側もカウンター可能
名前のインパクトと相まって、将棋ファンの間では人気が高い奇襲の一つです。


嬉野流|玉を早く囲ってからの奇襲
嬉野流は、序盤で角道を閉じたまま玉を囲いに行く独特な奇襲戦法です。角を動かさずに守備を固める点が特徴的で、従来の定跡感覚では理解しづらい指し回しが続きます。
- 狙い:玉を先に固めてからじっくり反撃
- 強み:相手が知らないと駒組みのバランスを崩しやすい
- 弱点:攻めの起点が弱く、受け一方になる可能性がある
アマチュア大会やオンライン対局でたびたび採用され、話題になることが多い戦法です。


まとめ|奇襲戦法の選び方
どの奇襲を使うかは、自分の棋風や対局環境によって選ぶのが理想です。
- 序盤から激しく攻めたい人:新鬼殺し・トマホーク
- 相手の動きを制限したい人:筋違い角
- 守備を優先しながら戦いたい人:嬉野流
こうした特徴を理解すれば、奇襲戦法をより効果的に活用できるでしょう。
将棋の奇襲戦法のメリットとデメリット
奇襲戦法は一発の意表を突く強烈な武器である一方、リスクも抱えています。実戦で取り入れる際には、長所と短所をしっかり理解しておく必要があります。ここではメリットとデメリットを整理し、どのように使いこなせばよいのかを解説します。
メリット|相手の意表を突き主導権を握れる
奇襲戦法の大きな魅力は、相手の準備不足を突いて主導権を握れる点にあります。
- 定跡に詳しい相手でも、知らない形に誘導できる
- 序盤から時間を使わせ、焦りやミスを誘発できる
- 攻めを早く仕掛けることで、短期戦に持ち込みやすい
特にネット将棋や早指しでは「時間攻め」と組み合わせることで効果が倍増します。
デメリット|受けを知っている相手には通用しにくい
一方で、奇襲戦法には明確なリスクもあります。
- 対策を知っている相手に当たると一気に不利になる
- 自分が定跡から外れているため、長期戦に弱い
- 攻めが切れると駒組みがバラバラになりやすい
特に高段者や研究熱心な相手には、奇襲が逆効果になるケースも珍しくありません。
メリット・デメリット比較表
項目 | メリット | デメリット |
対局展開 | 意表を突き主導権を握れる | 受けを知っていれば不利に |
時間配分 | 相手に考えさせて時間を削れる | 自分も対応を間違えると即不利 |
勝ちやすさ | 低級〜中級では通用しやすい | 上級者には通用しにくい |
奇襲戦法を使うときの心構え
奇襲戦法は「勝率を安定させる戦法」ではなく、「一発の爆発力で勝ち切る戦法」です。そのため、大会の短期決戦や、持ち時間の短い早指しには効果的ですが、持ち時間が長い将棋では慎重に選ぶ必要があります。
また、奇襲を繰り返し使うと相手に読まれやすくなるため、定跡戦法とのバランスも大切です。
将棋の奇襲戦法への対策と崩し方
奇襲戦法は相手の意表を突くことで効果を発揮しますが、受けを知っていれば十分に対応可能です。ここでは代表的な奇襲に対する対策と、崩し方のポイントを整理します。
プロ・アマでの代表的な対策パターン
奇襲戦法への基本的な受けは「無理をせずバランスを取る」ことです。例えば筋違い角に対しては角をうまく交換し、遊び駒にしてしまえば自然と不利を誘えます。
- 筋違い角対策:飛車先を伸ばさず、角を働かせにくくする
- 新鬼殺し対策:早めに玉を固め、相手の攻めを正面から受ける
- トマホーク対策:中央突破に備えて歩を突かず、駒組みを優先する
- 嬉野流対策:相手が玉を囲う前に素早く攻め筋を作る
このように「奇襲には無理筋がある」と理解しておくことが大切です。
棒銀や居飛車急戦型での対処法
奇襲には、こちらから「定跡型」で対抗するのが有効です。
- 棒銀:奇襲のバランスを崩すのに有効。飛車先を攻めることで主導権を奪える
- 居飛車急戦:玉が薄い奇襲相手には急戦を仕掛け、速度勝負で有利に
相手が奇襲に頼った陣形を選んでいる場合、玉の守りが薄いケースが多いため、速攻が刺さりやすいのです。
対策が難しい場合の安全な受け方とは
奇襲戦法に慣れていない場合は、まず「固く囲う」ことを意識しましょう。
- 美濃囲い・矢倉など堅陣を組む
- 駒を前に出しすぎず、自陣を整備する
- 相手の攻めが切れるまで受け続ける
堅さを優先して駒組みを進めれば、奇襲の勢いは自然と落ちます。
まとめ|奇襲は知っていれば怖くない
奇襲戦法は「知らないと怖い」が「知ってしまえば怖くない」戦法です。定跡書や動画で対策を学んでおけば、むしろ奇襲側がリスクを抱えることになります。
将棋の奇襲戦法は初心者にもおすすめ?
奇襲戦法は一見すると初心者向きに思えます。少ない手順で攻めに出られ、相手のミスを誘いやすいからです。しかし、その一方でリスクも伴うため、どのような層に向いているのかを見ていきましょう。
初心者が使う際のポイントと注意点
初心者にとって奇襲戦法の魅力は「覚える手順が少ない」ことです。
- 定跡を丸暗記しなくても戦える
- 攻め筋がシンプルで理解しやすい
- 意表を突く快感を味わいやすい
ただし、相手が受けを知っていると通用しづらく、駒損してしまうことも多いため、「奇襲だけに頼る指し方」にならないよう注意が必要です。
組みやすさと学習難易度を他囲いと比較
他の戦法や囲いと比べると、奇襲戦法は手順が短く、導入が簡単です。
戦法 | 学習難易度 | 特徴 |
奇襲戦法 | 易しい | 短期決戦向き、少ない手順で攻められる |
矢倉 | 難しい | 定跡知識が多く必要、長期戦向き |
美濃囲い | 中程度 | 振り飛車の定番、守備力が高い |
穴熊 | 難しい | 完成までに時間がかかるが最強クラスの守り |
初心者が「まず勝つ楽しみを知る」には奇襲戦法は良い選択肢ですが、次のステップとして堅陣の囲いや定跡も学ぶことが大切です。
覚えておきたい基本パターンと応用形
初心者が奇襲を取り入れるなら、まずは代表的な奇襲をいくつか押さえると良いでしょう。
- 筋違い角:形がシンプルでわかりやすい
- 新鬼殺し:序盤から積極的に攻めたい人向け
- 嬉野流:玉を早めに囲うので安定感がある
これらを一度覚えておけば、対局ごとに「今日は奇襲で行こう」「今日は正統派で行こう」と選択肢が広がります。
将棋の奇襲戦法を学べるおすすめの本・動画
奇襲戦法は実戦で使う前に「基本の狙い」と「受けのされ方」を知っておくことが大切です。本や動画を通して効率的に学べば、成功率を高めつつ失敗のリスクを減らせます。ここでは初心者から中級者に役立つ教材を紹介します。
入門書や定跡本で学ぶならこれ!
奇襲戦法を扱った書籍は数多くありますが、代表的なものを挙げてみましょう。
- 『奇襲戦法のすべて』(将棋世界・マイナビ出版)
→ 奇襲全般を体系的にまとめている入門書。 - 『筋違い角の教科書』
→ 古典的な奇襲の代表格を深く学べる。 - 『将棋・鬼殺し戦法入門』
→ 初心者にわかりやすく、新鬼殺しに特化。
これらは入門者でも理解しやすく、奇襲の狙いとリスクの両方を学べます。
YouTubeで学べる奇襲戦法解説動画
近年はYouTubeの将棋チャンネルでも奇襲解説が盛んです。
- アゲアゲ将棋実況:「鬼殺し」「トマホーク」など実戦解説が豊富
- 元奨励会員アユムの将棋実況:奇襲の対策や受け方を詳しく解説
- 将棋倶楽部24配信者:実際のネット対局から奇襲の実例を学べる
映像で手順を追えるので、実際に自分で試すイメージがしやすいのが特徴です。
プロの実戦例をチェックして理解を深めよう
奇襲戦法はアマチュア色が強いものの、プロでもまれに採用されることがあります。棋譜データベースや将棋連盟のサイトを利用すれば、プロ実戦での奇襲例を確認できます。
- 棋譜中継サイト:奇襲の実例を保存して研究可能
- プロ棋士による著書:実戦譜を通じた解説が理解を深める
奇襲が実際にどのように展開するのか、プロの指し回しを見ることでバランス感覚が養われます。
まとめ|将棋の奇襲戦法を武器に将棋の幅を広げよう
奇襲戦法は、相手の意表を突きながら短期決戦に持ち込みやすい魅力的な戦法です。リスクもありますが、正しく使えば勝率を大きく高めることができます。ここでは、学んだ内容を振り返りつつ実戦への活かし方を整理します。
奇襲としての使いどころと効果的な運用
奇襲戦法は「必勝法」ではありませんが、適切なタイミングで使うと大きな効果を発揮します。
- 早指しやネット将棋など持ち時間の短い対局
- 格上相手に一発勝負を仕掛けたいとき
- 定跡通りの進行が苦手なとき
相手の研究を外して主導権を握るための戦術として有効です。
対策を知った上で使えば大きな武器に
奇襲は「相手が知らない」ことを前提にしています。そのため、自分が使うだけでなく、対策もセットで学ぶことが大切です。
- 奇襲の狙いを理解する
- 定跡書や動画で対策も勉強しておく
- 奇襲が失敗した後の指し方も準備しておく
これにより「一発勝負の戦法」から「実戦でも十分使える戦法」へと昇華できます。
実戦と復習で奇襲戦法の精度を上げよう
最終的には、実戦で繰り返し試すことが上達の近道です。
- 将棋ウォーズ・将棋クエストなどオンライン対局で実践
- 指した棋譜を保存して復習
- 対策をされたら、その受けを研究して自分の武器にする
学びと実戦を繰り返すことで、奇襲戦法は「遊び」から「戦術」へと進化していきます。



